第12回 口頭弁論・証人尋問の報告

第12回 口頭弁論・証人尋問の報告


 2016年12月13日、東京地裁103号法廷において、第12回口頭弁論が開かれた。この裁判もいよいよ大詰めとなり、証人尋問が行われた。傍聴券を求める支援者の列は、219人であった。また、証人尋問とあって、愛知、大阪、広島、福岡(小倉)の各地で「無償化」裁判を闘う支援者や弁護士も傍聴に駆けつけた。

 この日、証人に立ったのは4人。まず、安倍政権が朝鮮学校の排除を決めた当時(2012年12月〜2013年2月)の、文部科学省の担当者である望月禎氏(初等中等教育局主任視学官・役職名は当時)と中村真太郎氏(初等中等教育局財務課高校修学支援室企画係長)への尋問が行われた。被告・国側がまず尋問を行い、次に原告側が尋問した。休憩を挟み、傍聴者から証人を見えなくする措置を講じた上で、原告本人が2人、証言に立った。国側からの尋問はなく、原告側弁護士の問いに答える形で、原告本人が意見を述べた。

○ 望月証人への尋問

 望月氏は、民主党政権から自公政権への政権交代直後、「高校無償化」を所管する高校教育改革プロジェクトチームの責任者として下村文科相と直接やり取りした人物。国側の尋問に対して望月氏が述べたことの概要は、以下のようなものであった。民主党政権下での朝鮮高校の審査において、報道機関(産経新聞)や公安調査庁、民間団体などから朝鮮高校に次々と疑念が寄せられる中で、「捜査権」など強制的な手段がないため、審査に限界があるという意見が審査会<注1参照>や省内から出ていたこと。政権交代後、下村氏が初登庁した12月26日の深夜に朝鮮高校の「高校無償化」適用について現状報告し、審査に限界があることを報告したこと。その場で官僚側から(1)朝鮮高校に対する審査を継続する(2)不指定にする(3)不指定にすると同時に規定ハ<注2>を削除する、という3つの案を示し、下村文科相は(3)の方針を指示したこと。なお、規定ハの削除の意味について、将来にわたって適用されないことを朝鮮高校に対して示すためである、と発言した。

 国側と望月証人が裁判官に印象付けようとしていたことは、文科省の審査にではなく規定ハが存在することにこそ問題があったこと、また、審査の限界は民主党政権下ですでに議論されていたこと、であると感じた。

・文科省は審査会の判断を得ようとしたのか

 続いて原告側弁護団長から尋問が行われた。やり取りを逐一紹介することはできないが、追及した主な論点は2つであった。1点目は、文科省は審査会の判断を得ようとしたのかどうか、という点であり、審査会として「判断できない」という結論を出したのか、審査会に時期を示して結論を出すように求めたのか、結論を出すことが可能かどうか審査会に照会したのか、と順に問いただし、答えはいずれも「いいえ」であった。これにより、文科相が、審査会の結論を得ることなく、不指定を決定したことが改めて明らかとなった。補足すると、規程15条<注1>では、文科相は審査会の意見を聞かなければならないことになっている。

・下村記者会見と不指定通知の矛盾

 2点目は、下村文科相が記者会見で述べた内容と不指定通知に記された理由との矛盾である。少し長いが引用すると、下村氏が2012年12月28日の記者会見で述べた内容とは、「拉致問題の進展がないこと、朝鮮総連と密接な関係にあり、教育内容、人事、財政にその影響が及んでいること等から、現時点での指定には国民の理解が得られず、〔朝鮮高校を〕不指定の方向で手続を進めたい〔中略〕このため、野党時代に自民党の議員立法として国会に提出した朝鮮学校の指定の根拠〔規定ハ〕を削除する改正法案と同趣旨の改正を、省令改正により行う」(下線及び〔〕内は引用者)というものであった。政治的外交的理由で朝鮮高校を不指定にする、そのために規定ハを削除する、ということが公式に述べられている。

 しかし、朝鮮高校に不指定を通知する文書(2013年2月20日付)には、記者会見で述べられていた政治的外交的理由は記されておらず、(1)規定ハを削除した(2)規程第13条に適合すると認めるに至らなかった、という2点が不指定の理由として記されていた。なお、規程第13条とは、「適正な学校運営」について定めたもので、「指定教育施設は、高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない」としたものである。

 記者会見での説明と通知文書の矛盾について質された望月氏は(初めは「矛盾」という単語の意味がわからなかったようであるが)、記者会見での下村氏の発言は「国民に分かりやすく説明したもの」である、「法律論ではない」などと言い繕ったものの、合理的に説明することはできなかった。傍聴席からは証人の後ろ姿しか見ることができなかったが、苦慮する様子や答えに窮する様子が見て取れた。「国民の理解」を口にしながら、その実、「国民」をバカにしきった物言いではなかろうか。

 なお、尋問の際にわざわざ国側が「高校無償化」の理念について質問し、望月氏が答える場面があった。そこで語られた「理念」とは、巨額の国民の税金を使って高校生の学びを支える、ということであり、そのためには「国民の理解」が重要である、ということらしい。「国民の理解」が得られない朝鮮高校への支出は許されないと言いたいようだ。これによってはっきりしたことは、文科省は、「すべての」高校生を差別なく支えるという理念は全く無視しているということだ。また、朝鮮学校の保護者たちが「国民」と全く同じ割合で税金を負担していることも無視している。「国民の理解」なる理由付けが、いかに恣意的で差別的なものであるかがわかる。

・「政治的外交的配慮」の有無

 民主党政権の政府統一見解では、「高校無償化」を適用するかどうかは、「制度的・客観的に把握しうる内容によることを基本とする」「外交上の配慮などにより判断すべきものではなく、教育上の観点から客観的に判断すべきものである」とされていた。これに対して下村文科相は、やはり2012年12月28日の記者会見で、「外交上の配慮などにより判断しないと、民主党政権時の政府統一見解として述べていたことについては、当然廃止をいたします」と明言している。普通に理解すれば、安倍政権では「外交上の配慮」をするようになる、ということだ。しかし尋問では、安倍政権の下では外交上の配慮をすることになったのか、という問いに対して、望月氏は明確に答えなかった。また、文科相は不指定という決定をする際に政治的外交的配慮をしたのか、という原告側の問いに対して、望月氏は、あくまでも、そのような配慮はしていないと明言した。

 言い張れば言い張るほど、記者会見での説明と通知文書の矛盾が浮き彫りになるかのようだ。また、政治的外交的配慮による不指定は、裁判所によって違法と判断されると国側は考えている、ということではないだろうか。この裁判の決定的に重要な争点と言えるだろう。

 弁護団長は最後に、朝鮮学校の不指定という決定は結論ありきだったのではないか、審査会の結論を得ようとせずに不指定を決めたのではないか、と改めて質したが、望月氏の答える声は小さく、明確な答えは傍聴者の耳に届かなかった。

○ 中村証人への尋問

 証言台に座った中村証人は、かなり緊張しているように見えた。中村氏は、規定ハの削除が法の委任の趣旨に反するかどうか文科省内で検討したことはないこと、朝鮮高校の審査については、望月氏と同様「捜査権」のような強制的な手段を持っていないので審査に限界がある、といった証言をした。原告側弁護団は、朝鮮高校と同じく規定ハによって審査され、「無償化」が適用されたコリア国際学園(大阪)とホライゾン・ジャパン・インターナショナルスクール(神奈川)については、自治体に法令違反の有無を問い合わせることのみで運営の適正性を確認していること、規定ハの削除にあたって2校は経過措置を受けていること、などを挙げて追及した。また、不十分な調査方法しかないと言うなら別の調査方法を考えるなり法令改正によって権限を強化するなりできるはずで、規定ハの方を削除するというのは逆転しているのでは、と追及した。

 国側は、適用された2校と朝鮮高校の扱いが違うことについて、朝鮮高校については公安調査庁や報道、民間団体から寄せられる疑念があったが、他の2校にはそれがなかった、という点を強調していた。このような論法がまかり通るならば、行政による審査は魔女狩りと化して、法治主義も何もあったものではない。

○ 原告本人への尋問

 続いて、原告本人が2人、証言に立った。現在、1人は朝鮮大学校に、1人は日本の大学に在学中とのこと。声から察するに2人とも女性のようだった。弁護団によれば、1人はチマチョゴリ、もう1人は普段着姿であった。プライバシー保護のため詳しくは紹介できないが、高校生としてどのような学校生活を送っていたか、「高校無償化」の問題をどのように受け止めたか、いま、どのような思いを持っているかが裁判官に向かって語られた。弁護士も報告会でそのように説明していたが、朝鮮学校のことを知らない裁判官に、高校生たちの姿をイメージさせるための証言だった。この問題で学生たちがどれだけ傷ついたか知ってほしい、学生たちが時間を使って立ち向かっていることを知ってほしい、駅頭での署名活動で「朝鮮はムリだから」と拒絶されて泣き崩れた経験、無償化問題に取り組んだり辛い言葉を浴びたりすることは「普通ではない」、といった原告の言葉は、支援者である私たちも心に刻むべきものと感じた。なお、裁判所には別途、東京朝鮮中高級学校の様子を伝えるための映像DVDが提出されているとのことである。

 以上が、約3時間の口頭弁論の概要である。知りたいことが出てきた方は、支援する会までお問い合わせいただきたい。

○ 報告会

 今回は口頭弁論が長時間となったため、報告会は19時より、文京区民センターで開催した。参加者は約300人であった。冒頭、裁判所に提出されている学校紹介DVDを上映した。続いて弁護団から、松原拓郎、師岡康子、李春熙、金舜植の各氏が登壇し、証人尋問について解説した。弁護団としては、証人尋問は成功という感触を得ているとのことであり、心強い。

 続いて、東京朝鮮中高級学校の教員である高秀花先生、朴龍浩先生、文慶華先生の3人から、アピールがあった。新任の高先生が、大阪朝高に在学していた時に橋下徹氏の学校訪問があり、大歓迎したものの、その翌日には補助金打ち切りが公表されるという体験について語り、また、無償化問題に取り組む学生たちを身近で見ていて無力感を痛感するとおっしゃったのが印象深かった。また、朴先生、文先生は、傍聴した感想として、堂々とした原告側弁護団に対するしどろもどろの役人の姿は、朝鮮学校排除の不当さの現れであると述べられた。また、学生たちの姿にやるせなさを感じること、傍聴者や支援者への感謝、必ず勝利するという決意を表明された。同種の裁判を闘う各地からは、大阪から丹羽雅雄弁護士、広島から金英雄広島朝鮮初中高級学校校長、福岡から金敏寛弁護士、朴憲浩弁護士が報告会に参加し、それぞれから現状報告と連帯のアピールがあった。

 主催者からは、長谷川和男が2017年2月25日の総会を予告した。また、行動提起として、朝鮮学校への補助金支給と「高校無償化」制度の適用などを求める「全国行動月間」(呼びかけ団体:朝鮮学園を支援する全国ネットワーク)が、2017年1月25日から2月末日まで開催されることが報告され、集会や街頭アピールなどをそれぞれで企画すること、取り組みの予定を支援する会にお知らせいただきたいことを呼びかけた。最後に、金曜行動で歌われる「声よ集まれ、歌となれ」を合唱し、この日の行動を終えた。

○ 次回もさらなる傍聴支援を!

 次回の期日は2017年4月11日14時から、ついに結審と決まりました。その次の期日には判決という見通しです。多くの支援者にお集まりいただき、傍聴希望の長蛇の列をつくりたいと思います。


*法律、施行規則、規程の関係

 「高校無償化」について定めた法律の正式名称は、「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」です。この法律の下に、省令によって定められた「施行規則」(公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則)があり、そのまた下に、「規程」(公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第1条第1項第2号ハの規定に基づく指定に関する規程)があります。

<注1>本文中の「審査会」とは、「高等学校等就学支援金の支給に関する審査会」のことです。「規程」の15条には、「意見の聴取」として、「文部科学大臣は、規則第1条第1項第2号ハの規定による指定を行おうとするときは、あらかじめ、教育制度に関する専門家その他の学識経験者で構成される会議で文部科学大臣が別に定めるものの意見を聴くものとする」とあります。この「教育制度に関する専門家その他の学識経験者で構成される会議」として文科相が設置したのが「審査会」であり、朝鮮高校、コリア国際学園、ホライゾン・ジャパン・インターナショナルスクールの審査を行いました。

<注2>「規定ハ」とは、「施行規則」の第1条第1項第2号ハの規定、のことです。高校無償化法に基づき、「無償化」の対象となる「外国人学校」(民族学校やインターナショナルスクールなど)の要件を定めた「施行規則」では、(イ)大使館を通じて日本の高等学校の課程に相当する課程であることが確認できるもの、(ロ)国際的に実績のある学校評価団体の認証を受けていることが確認できるもの、(ハ)イ、ロのほか、文部科学大臣が定めるところにより、高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして文部科学大臣が指定したもの、の3類型が規定されていました。そして、(ハ)に基づく学校の指定をするための細則として、「規程」が定められました。





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テーマ : 高校生
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